TOBATA OTANIEN NEWSLETTER

戸畑大谷園通信

06
第6号|2026年12月号
発行:戸畑大谷園
冬の入浴前の見守りの場面

第6号|今月の特集

冬のお風呂と「温度差」
入る前・つかる間・出たあと

寒い季節は、暖かい部屋と冷えた脱衣所・浴室との温度差が大きくなります。高齢の方が浴槽の中で亡くなる事故は、交通事故の3倍以上あり、冬に多く起きています。デイの入浴介助でも、ご自宅のお風呂でも、入る前のひと声と、少しの準備で見守れることがあります。理学療法士・鍼灸師の二つの視点でまとめました。

1救急車(119番)
反応がない・けいれん
2入浴を見合わせる
熱・いつもと違う
3準備と目安
暖める・41度・10分

P3-4

特集:冬の入浴と温度差

浴槽内の事故の数字・見合わせる目安・申し送り文例

P5-6

東洋医学の視点

二つの目で見る/冬と「心」「腎」のつり合い/冬の養生に用いられる3つのツボ

P7-8

セルフケア・ご相談

入浴の前・最中・あと/✂ 入浴前の確認チェック/読者Q&A・ご相談の窓口

村田幸俊

執筆・監修:村田 幸俊(理学療法士・鍼灸師)|園の中で、健康のご相談をお受けします

今月の視点
第6号今月の視点 / 監修者のご紹介TOBATA OTANIEN|2026.12
十二月

THIS MONTH

「お風呂が好き」の裏にある、
冬の温度差に気をつけて

第6号をお届けします。冷え込みが強くなると、「熱いお風呂に長くつかるのが楽しみ」という声をよく聞きます。お風呂は体を温め、気持ちもほぐしてくれる大切な時間です。一方で、冬は暖かい部屋から寒い脱衣所へ、そこから熱いお湯へと、体が大きな温度差にさらされます。デイでの入浴の前、ご自宅でのお風呂の前に、ひと声かけて様子を見る。その小さな手間が、大切な見守りになります。

村田幸俊

執筆・監修

村田 幸俊むらた ゆきとし

理学療法士 鍼灸師

理学療法士として体の動き・筋力・関節の状態を見つめ、鍼灸師として東洋医学の視点から体全体のめぐりを整えることを大切にしています。体の動きと、東洋医学でいう気血水(き・けつ・すい)のめぐり——二つの目で見ることで、見えにくかった背景に気づけることがあります。あせらず、その方の暮らしに沿って丁寧に向き合うことを心がけています。

おもな資格・活動
  • 理学療法士/鍼灸師(運動・リハビリと鍼灸の両面から身体を診る)
  • 北九州市鍼灸マッサージ師会 広報部長
  • MOVEリハビリテーション研究会 運営(研究会・多職種交流会を複数主催)
こんな時はご相談ください
  • 浴槽の出入りが不安になってきた
  • お風呂のあとにふらつくことがある
  • 冬になってお風呂を嫌がるようになった
今号の使い方(3ステップ)
  • ① 反応がない時は「顔を出す→栓を抜いて応援→119番」(P4の赤枠)
  • ② 入浴前後はP7のチェック表に記録し、看護師へ
  • ③ ふだんは表紙の3段階(119番/見合わせる/準備)で
入浴について相談する場面
02
特集
特集冬の入浴と温度差 ①(西洋医学の目で)TOBATA OTANIEN|2026.12
01

FEATURE

浴槽の事故は、交通事故の3倍以上

令和6年に、浴槽内での(および浴槽への転落による)溺死・溺水で亡くなった方は7,776人。そのうち65歳以上が7,363人で、約95%を占めます。同じ年の65歳以上の交通事故による死亡(2,103人)の3倍以上です。令和元年の集計では1月がもっとも多く、11月から4月の寒い時期に多く起きています。

暖かい部屋から寒い脱衣所・浴室に入ると血圧が上がり、そのあと温かいお湯につかると血圧が下がります。こうした急な血圧の変動で、意識を失うことがあると考えられています。いわゆる「ヒートショック」と呼ばれるものです。のぼせ(体温の上がりすぎ)で意識が遠のくこともあります。

65歳以上の浴槽内での溺死・溺水と交通事故の死亡数の比較

令和6年の65歳以上の死亡数。浴槽内での溺死・溺水と交通事故の比較。出典:消費者庁(2025年12月の注意喚起・人口動態統計より)

約95%

浴槽内の溺死・溺水のうち
65歳以上の割合(令和6年)

7,776人中7,363人。出典:消費者庁

現場で見る3つのサイン
  • 入る前…顔色がいつもと違う・だるそう・食事の直後
  • 入っている間…長湯になる・呼びかけへの返事が遅い・音がしない
  • 出たあと…ふらつく・ぼんやりしている・顔色が戻らない

入る前は看護師へ。入っている間・出たあとは、その場で声をかけて看護師へ。

事故の背景① 体とお薬
  • 高血圧・心臓の病気・糖尿病などのある方
  • 食事の直後・お酒のあと…血圧が下がりやすい
  • 血圧の薬…効き目が強まる時間帯に注意/利尿薬…脱水・立ちくらみ/血糖を下げる薬…空腹時の入浴で低血糖
  • 睡眠薬は入浴のあと、寝る直前に

服薬と入浴の間隔は、主治医・薬剤師と決めた方法で

事故の背景② 家とお風呂
  • 脱衣所や浴室が寒い(居間や脱衣所が18度未満の家では、熱いお湯に入る人が増えるという国土交通省の調査も)
  • お湯が熱い・長くつかる
  • 一番風呂(浴室が温まっていない)
  • 一人で入っていて、異変に気づく人がいない

寒い日は日本気象協会の「ヒートショック予報」(tenki.jp)も目安に。出典:消費者庁(2020年)

※ 入浴の可否の判断は主治医・看護師へ。浴槽の出入りの動き方のご相談は、園の理学療法士・鍼灸師へ。

03
特集
特集冬の入浴と温度差 ②(見合わせる目安と申し送り)TOBATA OTANIEN|2026.12
お湯の中で反応がない時(その場で)
  • ① 顔をお湯から出す
  • ② 栓を抜き、大声・ナースコールで応援を呼ぶ
  • ③ 119番
  • ④ 引き上げは二人以上で(無理なら沈まないよう支える)
  • ⑤ 普段どおりの呼吸がない・分からない時は、胸骨圧迫・AED
  • こんな時も119番…浴室・脱衣所のどこでも、呼びかけに反応しない・息をしていない・けいれん・ろれつが回らない・片側の手足が動かない/胸の痛み・強い息苦しさ
入浴を見合わせる・相談の目安(判断は看護師)
  • 血圧・体温の目安は、事業所で医師・看護職が決めた基準で(P7に記入)
  • 入浴前に看護師へ(見合わせるか判断)…熱がある・いつもと様子が違う・息苦しい/食事の直後・お酒のあと・眠気やふらつきの出る薬のあと
  • 早めに主治医へ…入浴のたびにふらつく・立ちくらみが増えた
  • だれに…デイ・施設では看護師へ。在宅ではご家族やケアマネジャーから主治医へ。迷う時は#7119へ(福岡県・24時間・看護師が助言)

出典:消費者庁(2020年・2025年)

血圧が上がって、下がる——温度差の流れ

暖かい部屋から入浴後までの温度差の流れ

暖かい部屋→寒い脱衣所・浴室→熱いお湯→急に立つ。だれもがこの流れをたどるわけではありません(イメージ)

寒い脱衣所で上がった血圧は熱いお湯で下がり、急に立つと頭へ行く血が減ってふらつくことがあります。浴槽から出る時は、手すりをにぎり、安定した浴槽台やへりにいったん腰かけてひと息ついてから、ゆっくり立ちます(方法は看護師・リハ職と)。お湯は41度以下、つかるのは10分までが目安です。(出典:消費者庁 2020年の注意喚起)

申し送りの文例(記入式)

「入浴前の様子[いつもどおり・気になる]。湯温[ ]℃・[ ]分で入浴し、出る時はへりで休憩。入浴後のふらつき[なし・あり]、水分[とった・まだ]。気になる点は看護師[  ]へ報告。」

ご家族・ご本人に伝える一言

「入る前に一声かけてね。脱衣所を暖めて、お湯は41度以下・10分まで。入っている間も声をかけます」——「熱いお風呂が好き」な方とご家族に。

04
東洋医学
連載東洋医学の視点 ①TOBATA OTANIEN|2026.12
02

SERIES|理学療法士 × 鍼灸師の目で

冬の温度差を「心」と「腎」で読みとく

ここからは鍼灸師の視点です。東洋医学では、冬は上の「心(しん)」の火と、下の「腎(じん)」の水のつり合いがゆらぎやすいと考えます。土台は経絡治療(けいらくちりょう=脈を診て、足りない所を補う古典鍼灸)の見立てです。「心」「腎」は臓器そのものではなく、体のはたらきをまとめた考え方です。

介護の現場では(まずここだけでも。この先は鍼灸の考え方のご紹介)
  • 脱衣所と浴室を、入る前に暖めておく
  • 首・手首・足首を冷やさない(3つの「首」)
  • 入浴の前とあとに、温かい飲み物を少しずつ
理学療法士の目

「お風呂のあと、立ち上がるとふらつく」を、ふらつく時機(出た直後か・脱衣所か)、座った時と立った時の血圧の差、浴槽をまたぐ時の片足立ち、手すりや浴槽台の有無で見ます。疑わしい時は主治医・看護師へ。

×
鍼灸師の目

冬は腎の経絡の力が足りなくなりやすく(腎虚=じんきょ)、上は熱く下は冷える「冷えのぼせ」の形になりやすいと見立てます。手足の冷えと、のぼせやすさを診ます。

心(火)と腎(水)のつり合い

腎は体を潤す水と温める力の両方を蓄え、心と上下で行き来してつり合うと考えます。冬に腎が弱ると、上はのぼせ、下は冷えやすくなるとされます。

心の火と腎の水のつり合い

心の火は下へ、腎の水は上へ(考え方のイメージ)

冷やさない3つの「首」

首・手首・足首は冷えが入りやすい所とされます。マフラー・手袋・靴下で守りましょう。

冷やさない首・手首・足首

首・手首・足首を冷やさない

今月の東洋医学ミニ用語|陽気(ようき)

体を温め、動かす力をまとめて指す言葉です。冬は内にこもりやすく、手足が冷えやすくなるとされます。冬は汗をかくほど動かず早めに休む、長湯で汗をかきすぎない、温かい食事と3つの首を冷やさないことが基本の養生です。※ 東洋医学の考え方のご紹介です。個人差があります。

05
東洋医学
連載東洋医学の視点 ② ― 冬の養生に用いられる3つのツボと食養生TOBATA OTANIEN|2026.12
冬の冷えとめぐりに用いられるツボ養生

介護職の方は、押すより手足を温める声かけを。ここからは、ご本人やご家族が行う養生のご紹介です。

冬の養生に用いられるツボの位置図(陽池・労宮・失眠)

図はおおよその位置。正確な位置は下の説明を

  • 陽池(ようち)/手の甲・手首のしわの小指寄り/手足の冷えに
  • 労宮(ろうきゅう)/手のひら・握ると中指の先が当たる所/気持ちを落ち着けたい時に
  • 失眠(しつみん)/かかとの真ん中/眠りの養生に

押し方=気持ちよい程度に、息を吐きながら5秒ほど。ツボは薬の代わりではありません。

ツボを押さない・弱めるとき
  • のぼせ・ふらつき・熱がある時、お湯につかっている時は押さない
  • 透析のシャントがある腕、まひやむくみのある手足、傷のある所は押さない
  • 血液をサラサラにする薬・あざができやすい・感覚が鈍い方はさする程度に。痛みやしびれが残ったらやめる
入浴の前とあとの、温かい飲み物
  • 水分の制限がある方(心臓・腎臓の病気など)は、主治医の指示の量で
  • 白湯(さゆ)・麦茶を人肌程度に温め、コップ半分〜1杯(夕方以降はカフェインの少ない物を)
  • 東洋医学で温める性質とされるしょうがは、砂糖なしでひとつまみ。のぼせやすい方は控えめに
  • お酒は入浴の前後とも控える。飲み込みに不安があれば、決められたとろみで
入浴の前とあとの温かい飲み物
こんな時の養生から

手足が冷える時は陽池/気持ちが落ち着かない時は労宮/寝つきが悪い時は失眠から。お風呂のあとのふらつきが続く時は、ツボではなく医療者へ。

ツボ養生のQ&A

Q. お風呂の中で押してもよい?

A. 湯船の中では押さず、上がって落ち着いてから、靴下をはいて行いましょう。

06
セルフケア
今日からできる入浴の前・最中・あとTOBATA OTANIEN|2026.12
03

SELF CARE

入浴の「前・最中・あと」と脱衣所の準備

入浴の前・最中・あとに気をつけること

デイの入浴介助でも、ご自宅のお風呂でも同じです。

入浴の前・最中・あとの見守り

前に暖めて一声、最中は41度以下・10分まで、あとはゆっくり立って水分を

  • 前…脱衣所と浴室を暖める(シャワーでお湯をはる・ふたを外す)。一声かけ、水分をとる。床にすべり止め、またぐ・着替えるのは座って
  • 最中…お湯は41度以下、つかるのは10分まで。かけ湯をしてから。出る時は、へりや浴槽台に腰かけてひと息ついてから立つ
  • あと…水分をとり、体が冷えないうちに服を。異変があれば反応と呼吸を確かめ、その場で看護師へ
  • 長湯・音がしない・大きな音がした時は、ためらわず声をかける

出典:消費者庁(2020年11月・2025年12月の注意喚起)

入浴の確認チェックと記録(申し送りにそのまま使えます) ✂ コピー・切り取って持ち歩けます / 利用者[    ] 記入日[    ] 記入者[    ]

入浴前の確認

① いつもと様子が違う
② 熱がある・だるそう
③ 食事の直後・お酒・眠気の出る薬のあと
④ 脱衣所・浴室が寒い
⑤ お湯が熱い(41度を超える)

入浴後の確認

ふらつき・顔色が戻らない
水分をとったか
ひとりで入っていたか
湯温[  ]℃・時間[  ]分

記録(測れた項目だけ)

血圧[  /  ]脈[  ]体温[  ]
事業所の基準(看護師が記入)[   ]
入浴[した・見合わせ]
報告[看護師  へ  時  分]

①〜③と記録は看護師へ。入浴するかは、事業所の基準で看護師が判断。④⑤は暖めて・湯温を下げてから。入浴後に異変があれば、反応と呼吸を確かめてその場で看護師へ。反応がない・けいれん等は119番(P4)。観察の目安で、診断の基準ではありません。

07

ご相談・多職種連携のご案内/コラムへのご要望

INFORMATION
ご利用者のことで気になる時は

「お風呂のあとにふらつく」「浴槽をまたぐのが不安」など気になる変化があれば、主治医・看護師・ケアマネジャーのみなさまと一緒に、園の理学療法士・鍼灸師として体の状態を確認します。浴槽の出入りや立ち上がり方のご相談もどうぞ。

コラムのご要望 リクエストフォームQR
お問い合わせ・連携のご相談
戸畑大谷園(担当:村田 幸俊)
TEL:093-883-0622
QR=コラムのご要望・取り上げてほしいテーマ受付
読者Q&A

Q. 冬は、毎日お風呂に入らないといけないのでしょうか?

A. 体調がよくない日や、寒さの厳しい日は、無理に湯船につからなくてもかまいません。
代わりにできること…体をふく(清拭)、足だけ温める(足浴)、暖めた浴室でのシャワー。
湯船に入る日は…脱衣所を暖め、お湯は41度以下・10分までに。
入浴の回数や方法は、主治医・看護師の指示を優先してください。

📮 ご質問・ご要望を募集しています

取り上げてほしいテーマや日ごろの疑問を、上のQR(または戸畑大谷園)へお寄せください。いただいた声は次号以降でお答えします。みなさまと一緒に育てていく通信です。

次号(1月号)予告
冬の便秘と、水分・体を動かす量。お正月をはさむ時期の、食事と活動の変化をまとめます。

入浴前に脱衣所を暖める場面
入る前に脱衣所を暖めておく。それが大切な見守りです。
戸畑大谷園 特別養護老人ホーム/デイサービス
TEL 093-883-0622
〒804-0032 北九州市戸畑区西大谷1-6-22/発行 戸畑大谷園・2026年12月1日(第6号・毎月1日発行)/執筆・監修:村田 幸俊(理学療法士・鍼灸師)/次号予告:冬の便秘と、水分・体を動かす量(予定)
バックナンバー:創刊号(7月)室内で起こる熱中症の見守り / 第2号(8月)夏バテ・食欲低下と低栄養 / 第3号(9月)夏の服薬管理と脱水・ふらつき / 第4号(10月)秋の乾燥と口腔ケア・誤嚥 / 第5号(11月)冬に増える足のむくみと冷え / 過去号は右のQRで
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