TOBATA OTANIEN NEWSLETTER
第6号|今月の特集
寒い季節は、暖かい部屋と冷えた脱衣所・浴室との温度差が大きくなります。高齢の方が浴槽の中で亡くなる事故は、交通事故の3倍以上あり、冬に多く起きています。デイの入浴介助でも、ご自宅のお風呂でも、入る前のひと声と、少しの準備で見守れることがあります。理学療法士・鍼灸師の二つの視点でまとめました。
P3-4
特集:冬の入浴と温度差
浴槽内の事故の数字・見合わせる目安・申し送り文例
P5-6
東洋医学の視点
二つの目で見る/冬と「心」「腎」のつり合い/冬の養生に用いられる3つのツボ
P7-8
セルフケア・ご相談
入浴の前・最中・あと/✂ 入浴前の確認チェック/読者Q&A・ご相談の窓口
執筆・監修:村田 幸俊(理学療法士・鍼灸師)|園の中で、健康のご相談をお受けします
THIS MONTH
第6号をお届けします。冷え込みが強くなると、「熱いお風呂に長くつかるのが楽しみ」という声をよく聞きます。お風呂は体を温め、気持ちもほぐしてくれる大切な時間です。一方で、冬は暖かい部屋から寒い脱衣所へ、そこから熱いお湯へと、体が大きな温度差にさらされます。デイでの入浴の前、ご自宅でのお風呂の前に、ひと声かけて様子を見る。その小さな手間が、大切な見守りになります。
執筆・監修
村田 幸俊むらた ゆきとし
理学療法士として体の動き・筋力・関節の状態を見つめ、鍼灸師として東洋医学の視点から体全体のめぐりを整えることを大切にしています。体の動きと、東洋医学でいう気血水(き・けつ・すい)のめぐり——二つの目で見ることで、見えにくかった背景に気づけることがあります。あせらず、その方の暮らしに沿って丁寧に向き合うことを心がけています。
FEATURE
令和6年に、浴槽内での(および浴槽への転落による)溺死・溺水で亡くなった方は7,776人。そのうち65歳以上が7,363人で、約95%を占めます。同じ年の65歳以上の交通事故による死亡(2,103人)の3倍以上です。令和元年の集計では1月がもっとも多く、11月から4月の寒い時期に多く起きています。
暖かい部屋から寒い脱衣所・浴室に入ると血圧が上がり、そのあと温かいお湯につかると血圧が下がります。こうした急な血圧の変動で、意識を失うことがあると考えられています。いわゆる「ヒートショック」と呼ばれるものです。のぼせ(体温の上がりすぎ)で意識が遠のくこともあります。
令和6年の65歳以上の死亡数。浴槽内での溺死・溺水と交通事故の比較。出典:消費者庁(2025年12月の注意喚起・人口動態統計より)
浴槽内の溺死・溺水のうち
65歳以上の割合(令和6年)
7,776人中7,363人。出典:消費者庁
入る前は看護師へ。入っている間・出たあとは、その場で声をかけて看護師へ。
服薬と入浴の間隔は、主治医・薬剤師と決めた方法で
寒い日は日本気象協会の「ヒートショック予報」(tenki.jp)も目安に。出典:消費者庁(2020年)
※ 入浴の可否の判断は主治医・看護師へ。浴槽の出入りの動き方のご相談は、園の理学療法士・鍼灸師へ。
出典:消費者庁(2020年・2025年)
暖かい部屋→寒い脱衣所・浴室→熱いお湯→急に立つ。だれもがこの流れをたどるわけではありません(イメージ)
寒い脱衣所で上がった血圧は熱いお湯で下がり、急に立つと頭へ行く血が減ってふらつくことがあります。浴槽から出る時は、手すりをにぎり、安定した浴槽台やへりにいったん腰かけてひと息ついてから、ゆっくり立ちます(方法は看護師・リハ職と)。お湯は41度以下、つかるのは10分までが目安です。(出典:消費者庁 2020年の注意喚起)
「入浴前の様子[いつもどおり・気になる]。湯温[ ]℃・[ ]分で入浴し、出る時はへりで休憩。入浴後のふらつき[なし・あり]、水分[とった・まだ]。気になる点は看護師[ ]へ報告。」
「入る前に一声かけてね。脱衣所を暖めて、お湯は41度以下・10分まで。入っている間も声をかけます」——「熱いお風呂が好き」な方とご家族に。
SERIES|理学療法士 × 鍼灸師の目で
ここからは鍼灸師の視点です。東洋医学では、冬は上の「心(しん)」の火と、下の「腎(じん)」の水のつり合いがゆらぎやすいと考えます。土台は経絡治療(けいらくちりょう=脈を診て、足りない所を補う古典鍼灸)の見立てです。「心」「腎」は臓器そのものではなく、体のはたらきをまとめた考え方です。
「お風呂のあと、立ち上がるとふらつく」を、ふらつく時機(出た直後か・脱衣所か)、座った時と立った時の血圧の差、浴槽をまたぐ時の片足立ち、手すりや浴槽台の有無で見ます。疑わしい時は主治医・看護師へ。
冬は腎の経絡の力が足りなくなりやすく(腎虚=じんきょ)、上は熱く下は冷える「冷えのぼせ」の形になりやすいと見立てます。手足の冷えと、のぼせやすさを診ます。
腎は体を潤す水と温める力の両方を蓄え、心と上下で行き来してつり合うと考えます。冬に腎が弱ると、上はのぼせ、下は冷えやすくなるとされます。
心の火は下へ、腎の水は上へ(考え方のイメージ)
首・手首・足首は冷えが入りやすい所とされます。マフラー・手袋・靴下で守りましょう。
首・手首・足首を冷やさない
体を温め、動かす力をまとめて指す言葉です。冬は内にこもりやすく、手足が冷えやすくなるとされます。冬は汗をかくほど動かず早めに休む、長湯で汗をかきすぎない、温かい食事と3つの首を冷やさないことが基本の養生です。※ 東洋医学の考え方のご紹介です。個人差があります。
介護職の方は、押すより手足を温める声かけを。ここからは、ご本人やご家族が行う養生のご紹介です。
図はおおよその位置。正確な位置は下の説明を
押し方=気持ちよい程度に、息を吐きながら5秒ほど。ツボは薬の代わりではありません。
手足が冷える時は陽池/気持ちが落ち着かない時は労宮/寝つきが悪い時は失眠から。お風呂のあとのふらつきが続く時は、ツボではなく医療者へ。
Q. お風呂の中で押してもよい?
A. 湯船の中では押さず、上がって落ち着いてから、靴下をはいて行いましょう。
SELF CARE
デイの入浴介助でも、ご自宅のお風呂でも同じです。
前に暖めて一声、最中は41度以下・10分まで、あとはゆっくり立って水分を
出典:消費者庁(2020年11月・2025年12月の注意喚起)
入浴前の確認
入浴後の確認
記録(測れた項目だけ)
①〜③と記録は看護師へ。入浴するかは、事業所の基準で看護師が判断。④⑤は暖めて・湯温を下げてから。入浴後に異変があれば、反応と呼吸を確かめてその場で看護師へ。反応がない・けいれん等は119番(P4)。観察の目安で、診断の基準ではありません。
「お風呂のあとにふらつく」「浴槽をまたぐのが不安」など気になる変化があれば、主治医・看護師・ケアマネジャーのみなさまと一緒に、園の理学療法士・鍼灸師として体の状態を確認します。浴槽の出入りや立ち上がり方のご相談もどうぞ。
Q. 冬は、毎日お風呂に入らないといけないのでしょうか?
A. 体調がよくない日や、寒さの厳しい日は、無理に湯船につからなくてもかまいません。
代わりにできること…体をふく(清拭)、足だけ温める(足浴)、暖めた浴室でのシャワー。
湯船に入る日は…脱衣所を暖め、お湯は41度以下・10分までに。
入浴の回数や方法は、主治医・看護師の指示を優先してください。
取り上げてほしいテーマや日ごろの疑問を、上のQR(または戸畑大谷園)へお寄せください。いただいた声は次号以降でお答えします。みなさまと一緒に育てていく通信です。
次号(1月号)予告
冬の便秘と、水分・体を動かす量。お正月をはさむ時期の、食事と活動の変化をまとめます。