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第4号|今月の特集
空気が乾く季節は、口の中もかわきやすくなります。口が乾くと汚れが残りやすくなります。その唾液が眠っている間に気管へ入る「むせない誤嚥」は、飲み込む力やせきの反射が弱っている時に肺炎につながることがあると言われています。秋の口のケアと見守りのポイントを、理学療法士・鍼灸師の二つの視点でまとめました。
P3-4
特集:秋の乾燥と口腔ケア
誤嚥性肺炎の数字/現場で見るサイン・受診の目安・申し送り文例
P5-6
東洋医学の視点
二つの目で見る/秋と肺・津液/秋の養生に用いられる5つのツボ
P7-8
セルフケア・ご相談
口のケアの手順と食後の姿勢/✂ 口のはたらきの観察チェック/読者Q&A・ご相談の窓口
執筆・監修:村田 幸俊(理学療法士・鍼灸師)|園の中で、健康のご相談をお受けします
THIS MONTH
第4号をお届けします。秋が深まると、園でも訪問先でも「口の中がかわく」「入れ歯が当たる」という声が増えてきます。むせる誤嚥は誰の目にも分かりますが、眠っている間に少しずつ起こる誤嚥は、周りからは見えません。見えないものに気づく手がかりは、毎日の記録とご家族の一言のなかにあります。今号が、その手がかりを拾うための一枚になればうれしく思います。
執筆・監修
村田 幸俊むらた ゆきとし
理学療法士として体の動き・筋力・関節の状態を見つめ、鍼灸師として東洋医学の視点から体全体のめぐりを整えることを大切にしています。体の動きと、東洋医学でいう気血水(き・けつ・すい)のめぐり——二つの目で見ることで、見えにくかった背景に気づけることがあります。あせらず、その方の暮らしに沿って丁寧に向き合うことを心がけています。
同じ「むせるようになった」でも、リハビリの目は飲み込む力・姿勢・舌と口唇の動きで、鍼灸の目は肺のはたらきと津液(しんえき=体をうるおす水分)のめぐりで見ます(くわしくはP5)。園のなかで、気軽にご相談いただける立場でいたいと思っています。
FEATURE
秋から冬にかけて空気が乾くと、口の中もかわきやすくなります。唾液が減ると食べかすや細菌が残りやすくなります。細菌をふくむ唾液などが気管に入ると、飲み込む力やせきの反射、体の抵抗力が落ちている時に肺炎につながることがあると言われています。
令和6年の人口動態統計(概数)では、誤嚥性肺炎による死亡は63,665人で死因の第6位、死亡総数の4.0%にあたります。誤嚥性肺炎とは別に数えられる肺炎(80,171人)のなかにも、飲み込みが関わるものが含まれると言われています。
令和6年の死因順位と死亡数(上位6位)。出典:厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況」(2024年データ・概数)
70歳以上の肺炎入院患者で
誤嚥性とされた割合
全国の複数施設の入院患者調査(80.1%)。出典:Teramoto S, et al.「J Am Geriatr Soc」2008年 56巻
現場で目安とされるサインです。ひとつでも続く時は、ほかの様子とあわせて記録に。
出典:長寿科学振興財団 健康長寿ネット(岩渕博史)の解説
※ 口の乾きやむせの背景に病気が隠れていることもあります。気になる時は主治医・看護師へ。受診が必要かの見きわめを含め、ふだんの様子のご相談は園の理学療法士・鍼灸師でもお受けしています。/湿度の目安の出典:厚生労働省「令和7年度 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A」(2025年)
判断に迷う時は、救急医療電話相談「#7119」(福岡県・24時間年中無休、看護師が緊急度を助言)に相談できます。数値の基準よりもいつもと違うかどうかを手がかりに。
※ ご高齢の方は、肺炎でも熱や咳がはっきり出ないことがあります。「食べない・飲まない」「いつもよりぼんやりしている」など、熱がなくてもふだんと違う様子が続く時はご相談ください。
口の乾きから肺炎までの流れ(イメージ)。飲み込む力やせきの反射が弱っている時に起こりやすく、だれもがこの流れをたどるわけではありません
むせない誤嚥(不顕性誤嚥=ふけんせいごえん)は、むせ(せき込み)が起こらないまま唾液や食べ物が気管に入ることをいいます。夜、眠っている間に起こることが多いとされますが、日中の食事中に起こることもあります。口の中がかわいて汚れがたまっているほど、唾液にふくまれる細菌が増えると報告されています。(出典:寺本信嗣「日本内科学会雑誌」2011年 100巻12号)
観察・実施したことに合わせて記入します。
「[ ]月[ ]日[朝・昼・夕]食:むせ[あり・なし]/食後の声の変化[あり・なし]/体温[ ]℃/食事時間[ ]分。口腔ケア[実施時刻 ]、義歯は歯科医師の指示に沿って洗浄・保管。食後は上体を起こして過ごすよう声かけ。発熱・痰の増加・食事時間の延長があれば主治医へ報告。」
「むせていなくても、眠っている間に唾液が気管に入ることがあります。だからこそ寝る前の口のケアが大事です。食べたあとは、しばらく上体を起こしたまま過ごしましょう」——「むせないから大丈夫」と思われているご家族に。
SERIES|理学療法士 × 鍼灸師の目で
ここからは、鍼灸師としての東洋医学の視点を加えます。東洋医学では、秋の乾いた空気を「燥邪(そうじゃ=乾燥という外からの負担)」と呼び、まず「肺(はい)」を傷つけると考えます。脈やお腹の状態にふれて、足りないところを見つける。不足しているうるおいを補い、めぐりを整える——それが土台にしている経絡治療(けいらくちりょう=気血のとおり道である経絡の虚実を診る古典鍼灸)の見立てです。なお東洋医学の「肺」「腎」は、現代医学の臓器そのものではなく、体のはたらきをまとめた考え方です。
「食事中にむせやすくなった」を、飲み込む力と姿勢で見ます。あごが上がっていないか、背中が丸まっていないか、舌と口唇が動いているか、食事の時間や体重の変化はないかを確かめます。
同じむせやすさを、肺のはたらきの低下と津液(しんえき=体をうるおす水分)の不足と見立てます。津液をつくる脾胃(ひい=消化吸収のはたらき)と、うるおいを蓄える腎(じん)もあわせて診ます。
むせやすさの背景(飲み込み・姿勢)と、毎日の養生(うるおい)の両方を、記録と声かけに活かせます。
東洋医学では、季節と五臓(ごぞう=体のはたらきの分け方)を結びつけます。秋は五行でいう「金(ごん)」にあたり、主るのは肺。肺は呼吸だけでなく、鼻・のど・皮膚のうるおいにも関わるとされます。
五行と五臓。秋=金・肺(はい)
津液は脾胃がつくり、肺が全身へ散らし、腎が蓄えると考えます。どこかが弱ると口・のど・皮膚・腸が乾くとされます。
津液は脾胃でつくられ、肺がめぐらせ、腎が蓄える
体をうるおす水分のはたらきをまとめて指す言葉で、唾液・涙・汗なども含むと考えられています。「津液が足りない」と、口やのどが乾く・空咳・皮膚のかさつき・便がかたくなる、といった様子で現れるとされます。温かい飲み物をこまめにとり(とろみや水分量の指示がある方は、その範囲で)、うるおす食材を食卓に足すことが、秋の基本の養生です。※ 東洋医学の考え方のご紹介です。感じ方には個人差があります。持病・服薬中の方は主治医・鍼灸師にご相談ください。
「口やのどが乾く」「空咳が出る」時には、道具のいらないツボ養生も助けになると言われています。ご本人がご自分で、またはご家族が手を添えて行う養生です(介助する側が無理に押すものではありません)。心地よい所から試してください。
図はおおよその位置。正確な位置は下の説明を
押し方=気持ちよい程度に、息を吐きながら5秒ほどゆっくり。強く揉みません。太淵は脈がふれる場所です。強く押さえつけず、長く圧迫しないでください。感じ方には個人差があります。妊娠中の方は合谷を避けてください。血が止まりにくい方、皮膚に傷や異常のある部位も避け、持病・服薬中の方は主治医・鍼灸師へ。ツボは薬の代わりではありません。
のどや口が乾く時は照海/空咳が気になる時は太淵/足腰の衰えもあわせて気になる時は太谿/鼻が詰まって口で呼吸している時は迎香から。
新しく出てきた息苦しさは、ツボではなく医療者へご連絡ください。
Q. 食事の前と後、どちらで押すのがよい?
A. 食事の少し前が向いていると言われています。食卓につく前のひと息として。1か所、息を吐きながら5秒ほどを2〜3回、心地よい圧で。食べた直後・発熱時・飲酒後は避けます。
SELF CARE
ケアはできるだけ座って少し前かがみで。座るのが難しい方は、姿勢や水分の量を看護師・歯科の専門職と確認してから行います。
かわいた口をいきなりみがかず、しめらせてから始め、保湿で仕上げます
特養11施設・366人・2年間の調査では、肺炎を発症した方は口腔ケアなしの群19%・ありの群11%という報告があります(出典:Yoneyama T, et al.「Lancet」1999年 354巻)。施設入所の方が対象で、上の手順だけの結果ではありません。医師・看護師・歯科医師の指示を優先してください。
オーラルフレイル(口のはたらきのおとろえ)の確認項目
追加の観察
①〜⑤は3学会の確認項目。2つ以上でオーラルフレイルの目安(地域の高齢者の約4割)。むせ・食後の声の変化は1つでも続けば共有を。出典:日本老年医学会ほか「オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメント」(2024年)
「食事中にむせるようになった」「口の中がかわいている」など気になる変化があれば、主治医・看護師・ケアマネジャーのみなさまと一緒に、園の理学療法士・鍼灸師として体の状態を確認します。食べる姿勢や飲み込み、口まわりの動きのご相談もどうぞ。みなさまの見守りを支える一員として関われれば幸いです。
Q. 入れ歯は、夜ははずした方がよいのでしょうか?
A. 1日1回は口からはずして、粘膜を休ませる時間をつくるのが基本とされています。就寝時にはずす方が多いのはそのためです。はずしたあとは義歯用ブラシで洗い、義歯用洗浄剤を併せて使い、水か洗浄剤の中で保管します(乾かすと変形のもとになります)。ただし、あごや粘膜の状態から「夜も入れておくように」と指示される場合もあります。個別の扱いは歯科医師の指示を優先してください。(出典:長寿科学振興財団 健康長寿ネット「義歯の取り扱い」)
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