TOBATA OTANIEN NEWSLETTER
第2号|今月の特集
暑い季節は、食事の量がそっと減っていきがちです。「夏だから仕方ない」の裏で、低栄養が静かに進んでいることがあります。早めに気づくサインと支え方を、理学療法士・鍼灸師の二つの視点でまとめました。
P3-4
特集:夏の食欲低下と低栄養
なぜ食べられなくなるか/サイン・受診の目安・食事の工夫
P5-6
東洋医学の視点
二つの目で見る/脾胃と気血水/食欲を支えるツボと食養生
P7-8
セルフケア・ご相談
食べる力を支える工夫/読者Q&A/ご相談・連携の窓口
執筆・監修:村田 幸俊(理学療法士・鍼灸師)|園の中で、健康のご相談をお受けします
THIS MONTH
第2号をお届けします。前号の「室内で起こる熱中症」に続き、今号は夏のもう一つの心配ごと、食欲低下を取り上げます。この時期の訪問先や園でよく耳にするのが「最近、食が細くなって」「そうめんばかりで」という声です。食事の量は、体重や元気さより先にそっと変化する、いちばん身近なサインでもあります。日々の記録やご家族の一言からいち早く気づけるのは、ケアマネジャー・看護師のみなさまです。今号が「あれ?」と思ったときの引き出しになればうれしく思います。
執筆・監修
村田 幸俊むらた ゆきとし
理学療法士として体の動き・筋力・関節の状態を見つめ、鍼灸師として東洋医学の視点から体全体のめぐりを整えることを大切にしています。体の動きと、東洋医学でいう気血水(き・けつ・すい)のめぐり――二つの目で見ることで、見えにくかった背景に気づけることがあります。あせらず、その方の暮らしに沿って丁寧に向き合うことを心がけています。
同じ「食が細くなった」でも、リハビリの目は体重・筋力・飲み込み・活動量で、鍼灸の目は脾胃(ひい=消化吸収のはたらき)や気血水のめぐりで見ます。両方の目で見ることで背景に気づき、日々の支え方の引き出しが増えます。園のなかで、気軽にご相談いただける立場でいたいと思っています。
FEATURE
夏に食欲が落ちる背景は、一つではありません。暑さで活動量が減って空腹を感じにくくなる、台所に立つのがおっくうになり冷たい麺類に偏る、水分でお腹がふくれる――こうした夏ならではの事情に、薬の影響・歯や義歯の不具合・飲み込みの衰え・独りの食事といった、季節を問わない要因が重なります。
そしてその先にあるのが低栄養です。65歳以上で「低栄養傾向(BMI20以下)」にあたる方は女性で22.4%と報告され、85歳以上では男性22.8%・女性24.8%と、男女とも最も高くなります。「夏だから仕方ない」と見過ごさないことが、秋からの体力を守ります。
低栄養傾向(BMI20以下)の高齢者の割合。出典:厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査」(2023年)
65歳以上の女性の
約5人に1人が「低栄養傾向」
BMI20以下。85歳以上では男女とも最も高くなります。
ご本人は「食べていますよ」とおっしゃることが多いもの。申告よりも、残し方と体重の変化が手がかりになります。
※ 食欲低下の背景に病気が隠れていることもあります。気になる時は主治医・看護師へ。「受診するほどではないけれど気になる」という段階のご相談は、園の理学療法士・鍼灸師でもお受けしています。
夏は脱水・熱中症が重なりやすい季節です。救急車を呼ぶか迷う時は、救急安心センター事業「#7119」に相談できます(対応地域)。
体重の変化は、食べられているかどうかのいちばん確かな手がかりとされています。起床後・食事前など条件を決めて月1回測り、記録を続けましょう。目安は「6か月間で2〜3kg以上の減少」。国の後期高齢者の質問票でも、この数字が確認の項目になっています。
食欲低下を放っておくと、右の図のように体重減少→筋力低下→活動量低下→さらに食欲低下という循環に入りやすくなります。早い段階で気づいて手を打つことが、この流れをゆるめる近道です。
食欲低下と体力低下の悪循環(イメージ)。どこかで気づいて手を打つことが大切です
出典:厚生労働省「介護予防マニュアル 第4版」(2022年)ほか。目安として、65歳以上のたんぱく質推奨量は男性60g・女性50g/日(日本人の食事摂取基準 2025年版・健康な高齢者の目安)。腎臓の病気などで食事制限のある方は、必ず主治医・管理栄養士の指示を優先してください。
「無理に完食を目指さなくて大丈夫。おかずから先に、食べられる時に食べられる物を。体重だけ月1回、一緒に見ていきましょう」——完食の声かけが負担になっている時は、こう伝えると食卓が楽になります。
「食事量と残し方の傾向を記録。体重を月1回・同条件で測定し、6か月で2〜3kg以上の減少があれば報告。間食でのたんぱく質補給を提案。むせ・義歯の不具合の有無を観察。」
SERIES|理学療法士 × 鍼灸師の目で
ここからは、鍼灸師としての東洋医学の視点を加えます。東洋医学では、夏の食欲低下を、冷たい飲食と暑さの消耗で「脾胃(ひい=消化吸収のはたらき)」が弱ったサインと考えます。脈やお腹の状態にふれて足りないところを見つけ、補い、めぐりを整える——それが鍼灸の見立ての基本です。
食事量・体重・筋力の数値で見ます。食べる量が減ると筋肉がやせ、立ち上がりや歩きの力が落ちていないか、飲み込みや姿勢に変化がないかを確かめます。
同じ「食が細い」を、脈とお腹の状態から脾胃の弱り=気血をつくる大もとの不足と見立て、足りないところを補い、めぐりを整える養生を考えます。
体は「気・血・水(き・けつ・すい)」の3つがめぐって保たれると考えます。その3つをつくる大もとが、食べ物を受け取る脾胃。脾胃が弱ると気血が細り、だるさ・疲れやすさ・やせとして現れると言われています。
食事は脾胃で「気・血・水」になり、体を支える
夏は「心(しん)」が高ぶる季節ですが、夏の終わり〜残暑は「脾(ひ)」がいちばん負担を受ける時期と考えます。冷たい飲食の積み重ねは脾を冷やし、食欲の低下につながるとされます。
五行と五臓。夏の終わり(長夏)=土・脾(ひ)
消化吸収のはたらきをまとめて指す言葉で、気血をつくる大もとと考えられています。「脾胃が弱る」と、食欲が落ちる・少しで満腹になる・食後に眠くだるい、といった様子で現れるとされます。温かい食事とよく噛むことが、脾胃をいたわる基本の養生です。※ 東洋医学の考え方の紹介です。持病・服薬中の方は主治医・鍼灸師にご相談ください。
「なんとなく食が進まない」「お腹が重い」という時には、道具のいらないツボ養生も助けになると言われています。ご本人と一緒に、心地よい所から試してみてください。
図はおおよその位置。正確な位置は下の説明を
押し方=気持ちよい程度に、息を吐きながら5秒ほどゆっくり。強く揉みません。妊娠中の方、血が止まりにくい方、皮膚に傷や異常がある部位は避け、持病・服薬中の方は主治医・鍼灸師にご相談を。ツボは薬の代わりではありません。
まずは1つ、心地よい所から。
アイスや冷たい麺を楽しむこと自体は、夏の張り合いでもあります。「空腹の一口目にしない」「食事の代わりにしない」の2つだけ意識すると、脾胃への負担が少なくなると考えられています。
Q. 食欲がない時、いつ押すのが良い?
A. 食事の少し前や、入浴後にのぼせ・ふらつきが落ち着いてからが向いています。1か所、息を吐きながら5秒ほどを2〜3回、心地よい圧で。脱水気味の時・発熱時・飲酒後は避け、食欲不振が長く続く時は無理をせずご相談を。
SELF CARE
左から 深呼吸(姿勢を起こして)/ほお・舌の体操(ふくらませる・左右に動かす)/「パ・タ・カ・ラ」とゆっくり発声
食べる前に口と舌を動かしておくと、噛む・飲み込む準備が整いやすいと言われています。体操は無理のない範囲で行い、医師・看護師の指示がある方はそちらを優先、体調に変化があれば中止を。むせやすい方・飲み込みの心配がある方は、主治医や言語聴覚士など専門職にご相談ください。
✓(気になる項目)が2つ以上ついたら、体重測定の頻度を上げて、主治医・ケアマネジャーと共有を。
「食が細くなった」「痩せてきた気がする」など気になる変化があれば、主治医・看護師・ケアマネのみなさまと一緒に、園の理学療法士・鍼灸師として体の状態を確認します。食べる姿勢や飲み込み、活動量づくりのご相談もどうぞ。あくまで、みなさまの見守りを支える一員として関われれば幸いです。
Q. 体重はどのくらいの頻度で測るのがよいですか?
A. 月1回、条件をそろえて(起床後・食事前など)測るのが目安とされています。「6か月間で2〜3kg以上の減少」は国の質問票でも使われる黄信号。食事量が急に落ちた時は頻度を上げ、主治医と共有してください。
取り上げてほしいテーマや日ごろの疑問を、上のQR(または戸畑大谷園)へお寄せください。いただいた声は次号以降でお答えします。みなさまと一緒に育てていく通信です。
毎年この時期、「そうめんなら食べるんです」という声を園でも訪問先でもうかがいます。食べられる物があるのは立派な入り口。そこにたんぱく質をひと品添える工夫を今号にまとめました。みなさまの声かけの引き出しになればうれしいです。(村田)